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日本ビオトープ協会誌「ビオトープ」 No.7


特別寄稿  我が家のビオガーデン  南 雄三

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*画面中の画像をクリックすると、拡大された写真と写真の説明を見ることが出来ます。


 私の家は東京・新宿の市ケ谷にある。そんな都心に、夏になれば螢が舞う庭がある・・・といえば誰もが驚くが、実はそれがどんなことなのか想像することは難しいようだ。だいいち、螢を見たことのない人だって多くいる。もちろん私の家族だって、私以外は螢がどんな風に光るのさえ知らなかった。
 都心の螢といえば目白の椿山荘がよく知られていたが、自然保護団体の反対が実って昨年中止した。バキュームカーで吸い込んでくる螢を、その立派な庭に放置するという行為は人間の強欲そのもの。とはいえ、わずか一週間という短い命(晴れ舞台)を自然の中で過ごす代わりに、都会の見事な庭の中で過ごすだけの違いさ・・・ということもできよう。そうした考え方がいかに浅はかなものか、私自身知ることができたのは、やはりビオトープの庭をもてたからだろう。そこには生態系がある。椿山荘の庭は立派だが生態系は存在しない。螢はその生に従って交尾をし種を残そうとする。しかし、椿山荘にもってこられた螢は種を残すことのない運命をもつ。これほど残酷な行為があるのだろうか。生物が生きるのは種を残す本能にあって、遺伝子がそれを伝えていく。その生自体を抹殺する行為こそ、最も残酷な行為だといわなければならない。生態系だってとても残酷な場ではあるが、そこには持続する系が存在する。
 都会の螢がどんなものか(まさかペットとは思っていないだろうが)想像の域を超える人達は夏になるとこの家を訪ねてくる。ハナレの私の事務所でワインを飲んで、ほろ酔い気分で螢を鑑賞するという豪華な螢のタベが連日続くのである。彼らはその小さな光の脈動に感動し、手のひらにその小さな身体をのせては大喜びし、蚊に食われながらも都心の小さな自然を味わって帰っていくのである。確かに螢はいて、それはペットではなかったことに満足しながら。



虫嫌いのビオトープ

 私の庭は敷地60坪の1/3を占める20坪。たったそれだけの庭に池と小川をつくり、ポンプで水を循環させている。山の植栽をたっぷりもってきて、それらに囲まれてビオトープ色の濃い部分と、楽しめる庭の部分が同居している。
 杉山恵一先生の提唱されるビオガーデンと主旨は同じだと思うが、私は二つを部分として分けるのではなくて、二つを美しく=有機的に結びつけたいと思った。日頃、私の求めるエコハウスのデザインは庭と部屋が縁側という内でも外でもないクッションを介して通じる日本的な空間を重視している。だから部屋と庭もつなげなくてはいけない。それもミ二チユアの自然をみせた日本的造園ではなくて、自然のままのビオトープを持ち込むというのだから難かしい。でも、日本人なら絶対に自然を庭に変えるデザインができるに違いないという気概もあった。だから、造園屋さんとの設計議論はいつもネツの入ったものになった。
 私の専門は木造住宅の断熱技術のコンサルだが、今ではすっかりエコロジーへの広がりに足を突っ込んでいる。エコを学びに毎年ドイツを中心にした欧米のエコ団地を訪ねて勉強しながら、あちこちでビオトープに接してきた。そこで目にするビオトープはどうも気味が悪くていけない。鬱蒼とした草と沼地のような池、そして水の中は藻で一杯・・・。
 私はアメ横で有名な御徒町生まれで、原風景といえば都電の線路にわずかに生えていた草に自然をみていたに過ぎない。つまり、自然とは無縁で育ったといってよい。そんな人間が高校生の頃から山に登り始め、自然の中に身を置くことを試みたが、それでも毛虫は嫌いだし、蛇は怖いし、蜘蛛をみるとぞっとする。家族だって、蝿が一匹部屋に侵入すれば大騒ぎをするほどの貧しい自然感しかなく、杉山先生が「ビオトープとは原風風景に似て・・」といわれる言葉に「・・」すっかり言葉を失なうほどエコから遠い人間である。
 だから、気味の悪いビオトープはまっぴらごめんで、家族も蚊の発生を恐れて反対した。そんな私がビオトープを求めたのは、形ばかりの造園には嘘がみえるし、流行のガーデニングにペット意識をみて反発したからである。エコを学んで知る循環の概念は、何かとても心を落ち着かせるものがある。静かにその場に居て、溶け込める庭ってどんなものだろうと思うとき・・・やはり生態系が織りなす自然体を求めたくなった。
 今は2月10日の午後1時半。ビオトープを眺める枕木のデッキで私はこの原稿を書いている。ポッカポカの陽を受けて、汗ばむほどの暖かさを感じながら、小さな風と小さなせせらぎが心地よい。こんな風に仕事ができる幸せは大きくて、冬がとても好きになった。
 ビオトープの庭はガーデニングのような騒がしさがなく、仕事的?でもないし、日本庭園のように研ぎ澄まされたものでもない。どこかに螢がいて、色々な生物が殺し合いながらも全体として共に生き続けていくことに嘘など存在するわけはなく・・・だから妙に心を落ち着かせてくれるところが好きだ。

 

 外からみる生態系はとても静かである。でもよく観察してみると、そこに生物がしっかりその役目を果たして存在している。あれほど嫌いだった蜘珠でさえ、その仕事ぶりに尊敬させられる。「お前にも役目があるんだな」「さて、私の役目はいったい何だ?・・・居ない方がいい?・・・螢だっていったい何の役に立っているのだろうか・・・」
 都心のビオガーデンはこうしてエコ意識もたせてくれる。



四年目を迎えて

 さて、最後に素人情報だがビオガーデンの経験者としての情報を述べれば・・
  • 螢はこのビオトープから逃げていかないこと。
  • 池の水は母屋の屋根に降った雨水を集めているが、それではまるきし不足するので水道水で補っている(井戸もあるが晴れ続きだと涸れる)。とにかくこの水の減ることが一番の問題点。
  • 但し、誰もがビツクリするが、水道水でもカワニナは育つことが実証された。川を流れていく途中で塩素が抜けるのかもしれない。
  • 蚊はいないとはいえないが、とても少なく、以前の庭の時よりずっと少ない。
  • 螢はへイケボタルだが、ゲンジボタル(幼虫を50匹くらい初年度に入れた)も一昨年に1匹、昨年は2匹みつけられた。
  • 鳥はメジロ、シジユウカラ、スズメ、ヒヨドリ、ツグミ、キジバト、ジョウビタキ、たまにオナガ、そして二度だけシラサギまでが飛んできた。
  • 事務所の屋根はパーライトの人工土壌に点滴灌水をして芝桜を植え、春には満開になって楽しませてくれるが、一昨年の夏のフェーン現象で一瞬にして涸れ、その後植え替えて正常に戻ったが、昨年は雨続きだったせいもあってか、雑草がすごくなり、ヤスデが大繁殖した。虫が繁殖したのは昨年がはじめてだった。自然をコントロールするのはやはり難しいようである。それでも屋根緑化の涼しさは抜群で、都会の屋根にこれほど適したものはないだろう。断熱屋としては注目に値するエコ行為である。





南雄三

(有)南雄三事務所 東京都新宿区市ケ谷薬王寺町74 
Tel.03−3268−7943 Fax.03−3268・7941 

E-mail:u-minami@t3.rim.or.jp

ホームページ:http://www.t3.rim.or.jp/~u-minami/ 

 昭和24年東京に生まれ。明治大学経営学部卒 
 木造住宅の高断熱高気密住宅の技術アドバイザーとして業界のリーダー的存在であり、在来工法を活かしたパッシブソーラーによる新自然住宅の提案。また、住宅産業全般について、ジャーナリストとしての鋭い視点で取材・評論活動を展開しており、業界紙や住宅雑誌に執筆の他各地で講演活動を行っている。 また、新宿にある自宅は大正の古住宅を再生し、屋根緑化や螢が生息するビオトープ等を試み、都心の共生住宅として新名所?になっている。 

 著書に「在来工法新時代(日本住宅新聞社)」、「これからの木造住宅3・省エネルギー・熱環境(日本住宅・木材技術センター)」、「高断熱高気密住宅・工法・技術の最新動向調査(情報開発)」、監修に「木製窓・ドア全科(NKS情報ネットワーク)」、「建築技術・97,98,99高断熱・高気密住宅シリーズ」などがある。 



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