日本ビオトープ協会誌「ビオトープ」 No.7
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| ビオトープに普通に見られるアシナガバチの仲間の生活についてはすでに話した(第2号)が、その親戚すじに当たるのがスズメバチである。俗にクマンバチとも呼ばれ恐れられている蜂である。スズメバチとは、鳥のスズメにたとえて、その大きさを示したのであろうが。大井川の奥地でこの蜂をフエマキと呼ぶのを聞いたことがある。横笛の縞模様からの連想であろうが趣深いものがある。 この蜂が恐れられるのは、当然猛毒の毒針を持っていて人を襲うからである。したがって危険であるからビオトープには望ましくない、とされるであろうが、真のビオトープはこのようなものも許容するものでなければならない。第一スズメバチは扱いを心得ていれば決してむやみに人を襲うものではない。 この蜂が人を襲うのは、常に巣に対する防衛、つまり人の攻撃に対する反撃であることを心得ておく必要がある。したがって、ビオトープ内に巣が存在しないで、外から花の蜜などを求めてやってくる蜂は、手でつかみでもしない限り安全である。たまたまこちらに向かって飛んでくることがあっても、襲撃するわけではない。顔の横を通り過ぎてもあわてることはない。 |
| 平野部でのスズメバチは数種類がある。今まで述べてきた、軒下や稀には樹木にタットボールのような巣を作るのは、キイロスズメバチとコガタスズメバチの他、1、2の種があるが、たいていこの2種、とりわけキイロスズメバチであると考えてよい。最近この種類がとりわけ街の中で他を圧倒する勢いで増加しているからである。その場合、人家の裏手の軒下や屋根裏などに巣を作ることが多い。それを発見した家の人が不安になり、その除去を保健所に依頼するので、神奈川県のある市では、そのための特別チームが組織されたという話を聞いたことがある。 やゝ延びた球状のスズメバチの巣は多くの人が知っているであろうが、内部の状況や作られる方法などになるとよく分からないのが普通であろう。 |
| スズメバチの巣の基本構造としては、アシナガバチの巣を想像すればよい。ただし、アシナガバチの巣がどんなに大きくても一層でしかないのに対して、スズメバチの巣は多層である。巣盤の下側に支えを作って次々に巣盤を重ねる。つまりアシナガバチの巣が平屋であるのに対して、ビルのようなものである。人間界のビルが下から上に階を重ねるのに対して、下に下にと階がぶら下げられてゆくのである。 |
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| もう一つの違いは、アシナガバチの巣が裸であるのに対して、スズメバチは、巣盤の層を包むようにして、厚いカバーを作ることで、これが同者の外観を全く違ったものとしているのである。 構造の違いは以上のようであるが、巣の材料もやゝ異なる。アシナガバチが、古い材木の表面のケバ、つまり純粋にセルローズ繊維をたんねんに集めて巣を作るのに対して、スズメバチは朽木を噛み砕いたものを用いる。リグニン質の多い材料で、キメも粗い。したがって、スズメバチの巣を和紙にたとえるならば、スズメバチのそれは段ボール以下の粗製の紙である。しかし、スズメバチの巣の外観は独特の鱗状の縞模様があり、デザインとしてはなかなかのものである。この縞模様は、材料の色の違いによって生ずる。色の濃い部分は朽木の樹皮の部分、白っぽい部分は材の部分からもたらされたものである。鱗状になるのは、一匹の蜂が身体を回しながら材料を塗り付けるからである。したがって、このデザインはすべて偶然の産物であるが、それだけとも思えないことがある。あまりに面白く縞が生じているからで、あるいは蜂は意図して、白い縞の後には濃い縞を置くのであるかも知れない。 |
| スズメバチも、その巣の開始は越冬した一匹の雌蜂によってなされる。後の女王格のこの雌蜂は、アシナガバチの巣と同じ形をした幼虫が成長したのがいわゆる働き蜂で、それらが増えるにつれて巣は急激に拡大する。 幼虫を養うのは、様々な昆虫を噛み砕いた団子である。アシナガバチが青虫などの筋肉だけを選ぶのに対して、全身を用いた粗製のものである。 |
オオスズメバチが出てきたところで、この蜂の説明に移ることにしよう。日本最大、おそらく世界最大のこのスズメバチは、キイロスズメバチと異なり、軒や樹上に巣を作ることは決してない。常に地中深くに巣を営むのである。私は昆虫少年の頃、この蜂の巣を発見し、巣に戻ってくる蜂を捕らえて何を運んできたかを調べたことがある。その中に、コガネムシを一匹ごと噛み砕いて作った、青く光る直径1cmほどの団子があった。このようなものを幼虫の餌とするのである。この蜂はキイロスズメバチの巣さえ襲うことが知られいる。 オオスズメバチの巣は地中にあるため、これを完全な形で掘り出すことはむずかしい。しかし、断片から想像して、直径1mに近い大きさのものもあるようである。 |
| 山村の人はこの習性を利用してこの蜂の巣のありかをつきとめる。すなわち、蛙の肉などに蜂を集め、運び去る方角に次第に近づけてゆき、ついに巣を発見するというわけである。
なぜそのようなことをするのかというと、巣が最も幼虫で充実する10月頃、巣を発掘して幼虫を取り出して食糧とするのである。 長野県ではこのハチの仔が重要な蛋白源とされてきた。私も缶詰を買ってきて内容を調べたことがあるが、かんじんのハチの幼虫より蛹の方が多く、巣の破片や寄生昆虫まで混じっていたのに驚かされたことがある。 |
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