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日本ビオトープ協会誌2002ビオトープNo.11

ダムの堆砂対策技術を考える

新潟大学工学部
教授 大熊 孝

 天竜川漁業共同組合主催の「天竜川の河川環境とダムを考えよう」というシンポジウムが昨年12月浜松であり、私が基調講演とパネルディスカッションのコーディネータを拝命した。これに先立ち30年振りに、天竜川を諏訪湖から下り、美和ダム(平成11年時点堆砂率23.3%、以下同じ)、小渋ダム(23.8%)、松川ダム(38.1%)、泰阜ダム(78.1%)、佐久間ダム(34.3%)、秋葉ダム(38.1%)、船明ダム(6.1%)、そして河口の海岸浸食状況まで見学した。途中、平岡ダム(85.0%)など立ち寄れないところもあったが、土砂堆積や土砂供給不足で苦しむ天竜川の惨憺たる光景を目の当たりにして、土木技術者としては痛恨の極みであった(写真1参照)。堆砂率でみるとそれほどひどいとは感じられないが、図1のように多くのダムが洪水放流ゲート下端まで堆砂しており、佐久間ダムでは平成14年度から「天竜川ダム再編事業」が始まり、堤体に排砂設備を設ける検討がなされるとのことである。

 佐久間ダムの完成は私が中学生の1956年であり、この電力で日本の戦災復興は順調に進むと日本国中が喜びに沸き返ったものである。事実、この完成以後に経済の高度成長が始まった。しかし、完成後半世紀をへずに、佐久間ダムは堆砂問題に苦しみ、天竜川の物質循環は絶たれ、その自然環境・生態環境は風前の灯にある。こうなることを誰が想像したであろうか? ただ、このことは1936年完成の泰阜ダムの堆砂状況等から、土木技術者であるならば早くから想像できたはずである。しかし我々は、ダム堆砂問題を解決しないまま、目先の利益のためにダムを造りつづけてきたのであった。

 現在約2700基あるといわれるダムの中で、排砂設備を備えたダムとしては、排砂ゲートによる出し平ダム(黒部川・関西電力)・宇奈月ダム(同・国土交通省)と、土砂バイパスによる旭ダム(新宮川水系・関西電力)の3ダムしかない。黒部川では洪水のピークが過ぎた直後にダムの貯水を空にして、洪水終了時の流量で土砂を押し流し、100万m3を超える排砂を可能としてきた。しかし、落葉がダム湖で無酸素状態でヘドロ化し、それが富山湾まで流下して、漁場を荒らしているとの批判を受けている。私は「黒部川排砂評価委員会」の一員でこれには責任があるが、排砂しなければダムがすぐに満杯になるのは明らかであり、出来るだけ自然状態に近い排砂を続けることによって漁場が回復することを切望している。旭ダムでは、バイパスの流下能力はダム地点計画洪水流量の1割強でしかないが、ダムへの堆砂量を激減させ、長期濁水化現象を緩和し、下流への土砂の流下によって生物の生息環境が改善されつつあるとのことである。ただ、石礫の流下によって、バイパストンネル底面の摩耗が激しく、非洪水期の補修は欠かせない状況にある。

 ところで、現在美和ダムでは土砂バイパスが工事中であり、松川ダム、小渋ダムでも平成14年度から土砂バイパス工事が始まると聞いている。これらの排砂システムは、図2のように、ダム湛水上流端に貯砂ダムを設け、大粒径の土砂はここに溜め、掘削・搬出し、細粒土のみバイパスを通過させる方法が採られる。この場合、バイパストンネルの摩耗という問題は小さくなるが、細かい粒径のものだけ下流に流れることになり、河床の浮石の間に細粒土がつまり、水生昆虫などの生息環境を悪化させるという新たな問題が発生するのではないかと危惧している。バイパストンネルの補修費と貯砂ダムの掘削・搬出費用はオーダー的には大差ないものと考える。ダムの堆砂対策は、ダムの堆砂量を減らすという観点だけでなく、川全体の生態環境の復活を視野に入れたものであるべきであろう。

多自然型河川工法やビオトープ事業も、地先の生態環境だけでなく、水系全体の物質循環さらには地球全体の物質循環に配慮した位置付けが不可欠でないかと考えている。

 


写真1 美和ダムの堆砂状況(2001年12月大熊撮影)
(土木機械で堆積土砂の掘削が行われていた。
美しかった渓谷が無惨な姿になっていた。)




図1天竜川ダム再編事業における説明図(国土交通省資料より) 



図2美和ダムの堆砂システム概要図(国土交通省パンフレットより)


 
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