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日本ビオトープ協会誌2002ビオトープNo.12

学校ビオトープの基本的な考えと今後の課題

全国学校ビオトープ・ネットワーク
副会長 村上宣雄
(滋賀県西浅井町立西
浅井中学校長)

1・ビオトープと学校ビオトープ
 学校ビオトープは近年多くの学校において関心がもたれ、実践の広がりを見せていることはうれしい傾向である。特に今年から始まった「総合的な学習」の時間の活用場面として脚光を浴びてきた。体験を伴う活動であり、保護者や地域住民と一緒に取り組める活動であるというスタイルが時代の流れに乗って、新しい取り組みとして評価されている。

 しかし、学校ビオトープのねらいや理念が正しく理解されているかどうかについては疑問がある。
 日本の経済発展は、バブルの崩壊を境に下降路線を辿っているが、それとは逆に、自然を破壊してきた事に気づく国民は多くなってきた。そして、先祖が残してくれた自然を、たった数十年間で壊してしまったことに悔いを感じ「もうこれ以上自然の破壊をしてはいけない。残された自然は大切に次の世代に引き継いていかねばならない。引き継ぐ事が私たちの役割であり、任務である」という人が増えてきている。長年環境保全の啓発に関わってきた筆者にとってはうれしい現象ではあるが、具体的な場面や行動となるとなかなか難しい。 確かに行政も大きく変わってきた。環境省、国土交通省、農林水産省も事業の推進にビオトープの考えを取り入れ、生態系保全を重視した施策や工法を提案し推進してきている。しかし、国直轄の事業は別として、都道府県や市町村段階の事業については、今も従来の手法と依然変わっていない。すべての工事がビオトープの姿勢をもって取り組むまでには、今後まだまだ多くの年月を要すると思われるが、時代の流れは確実によい方向に向いている。しかし温度差は地域によって大きい。

 ここで「ビオトープ」と「学校ビオトープ」について整理しておきたい。すでにご存知のように「ビオトープ」とはもともとドイツ語でBIO(生物)とTOP(場所)の合成語で、野生の生き物が生まれ育つある地域の生態系のことである。ここで大切なことは、「−−生き物が生まれ育つ−−」という概念である。ある池にいくら多様な生き物が棲息していたとしても、その池において、生き物が増えない所であれば、それはビオトープとしては良い場所とは言えない。そこにすむ生き物が次の子孫を増やすことの出来る環境であるかどうかがビオトープでは重要なポイントである。次に大切なことは、ビオトープという概念の範ちゅうである。えてしてビオトープを生き物の棲める空間を新たに造る一連の作業に限定してとらえている人が以外に多い。
 ビオトープという概念には「保全・復元・創造」の3つが包含されている。よって、近くに生態系の豊かな環境があり、それを大切に保護する取り組みはまさにビオトープとしての取り組みである。すでに破壊されてしまった自然環境を少しでも生き物が住みやすい環境に復元する取り組みや、生き物がいない場所に、人工的に川や池、湿地を作り付近の生き物をすまわせる取り組みもビオトープである。



日本庭園の池をビオトープ池にする中学生 
     (滋賀県西浅井中学校)

 さて「学校ビオトープ」という概念はどのように考えれば良いのであろうか。人によって解釈は異なるかもしれないが、私たちネットワークでは次のように共通理解をしている。すなわち、すでに学校の敷地内や学校のまわりにある豊かな自然環境の他、それらを復元したり、新しく創造したりすることによって生まれた自然環境が、子どもや生徒たちの学習や遊びにかかわりを持つ場合、その場所を学校ビオトープと呼んでよいと考えている。よって、ある学校の子ども達が、学校近くの三面コンクリートの川にかかわりをもち、川の中に砂や泥が溜まるようにさまざまな工夫をして、少しでも生き物が増える川にする学習を行った場合、これは立派な学校ビオトープとしての取り組みとである。国土交通省や農林水産省が進している「川の学校」「たんぼの学校」「森の学校」も学校ビオトープとしての取り組みである。しかし、学校という限定されたエリアの中のみの事業だけに限定すれば、学校ビオトープの将来的な発展はあり得ない。今開かれた学校が求められているが、それは子どもたちが地域の自然や文化に触れることであり、地域の人々との係わりをもつことである。児童や生徒たちは、学校という垣根を超えて地域に学ぶ事が今後益々重要視されてくる。キャンバスはふるさとであり、テキストは生き物というイメージである。

 私は滋賀県の生物環境アドバイザーとして、数多くの公共事業に携わってきているが、道路や河川の工事が学校の近くで行われていても、それを学習の場(教材)として取り上げる学校はまだ多くはない。私は近くの学校長や関係の教師に行政と一緒に取り組むように話をもっていくが、組織的な体制や指導者不足が原因で実現はなかなか難しい。しかし、本来学校ビオトープとは、学校の中に池や森を造る活動に限定しないで、校舎外の自然環境の保全や復元、さらには創造に関わる活動も包含すべき性格のものである。ここで大切なことは、これらの活動に対して学校は主体的に取り組むことである。そして、しっかりとしたカリキュラムに位置付けられていることである。近くの河川の復元を子ども達が大人と一緒になって取り組み、ホタルの飛び交う小川に復元した例などは素晴らしい学校ビオトープの取り組みといえるであろう。滋賀県の北に位置する小学校では、農林水産省が造ったビオトープのため池に最初から係わり、魚の引っ越しから、生き物のモニタリング調査などを行い、そこを総合的な学習の場として年間活用しているこの例などは、学校の敷地内にビオトープはないけれども素晴らしい学校ビオトープとしての取り組みの事例である。
都会では自然環境がほとんど無い状況下であり、学校の中にビオトープを造ろうとする取り組みが多いが、田舎の学校では、学校の周りにまだまだ豊かなビオトープ空間が残されており、そうした場所に関わることが学校ビオトープとしては取り組み易い。

2・学校ビオトープの意義
 次に学校ビオトープを推進した場合、どのようなメリットがあるのだろうか。今までの様々な取り組みを見る中で私は次の3点に要約できるのではないかと考えている。
@生き物のオアシス作りであり、豊かな生態系を全国に出現させることができる。
全国には数万という学校がある。それぞれの学校が校舎の内外にビオトープとしての生態系空間を作り、生き物を保全していく活動を展開するのである。そしてすべての学校の生き物リストを作成して いけば、その活動は極めて大きな成果が期待できる。       
サンショウウオを中心とした生態系保全に力を入れているところもあれば、オオムラサキなどのチョウのすむ林を保全している学校もあろう。メダカやタナゴの仲間を池で増やす学校も出でこよう。消えていくサギソウやトキソウなどの貴重な湿地植物を保全するめために、人工増殖を続けている学校もあろう。私たちのネットワークの活動はこうした取り組みをも視野に入れている。

A「いのち」とふれ合う学習の場を提供する。
 今教育の現場でキレる子どもが増えている。様々な原因があるが、その一つに幼いころの自然体験、特に生き物との触れ合いが無いことも指摘されている。学校やその周辺にビオトープを作ることによって、子ども達は野生の「いのち」と直接ふれあう事が可能になる。そのことを通じて、自然の仕組みを体験し、命の大切さを学ぶだけでなく、他者への思いやりの心を育てることができる。やがてビオトープに取り組む学校から、いじめや減り、他の友達に危害を加える生徒が減少していくというデータが得られれば素晴らしい事である。
 学校ビオトープの取り組みによって、全国の子ども達が近くの川や池、さらに里山に足を運ぶようになることが私たちの願いでもある。

B地域と一緒に歩む学校づくりに寄与する。
 学校ビオトープづくりは、単に学校だけではなく、地域住民の理解と協力、さらには行政や企業の協力が必要である。そのため、学校ビオトープは地域ぐるみのパートナ−シップ実現のきっかけとなり、街づくりにも貢献し、コミュニティづくりに結びつくのである。


   子供達と一緒にビオトープ池を作る
     (滋賀県西浅井中学校)

 今全国各地で取り組まれている学校ビオトープづくりは、何らかの形でコミュニティと深く結びついているが、その理由は次の4点にある。

●学校ビオトープづくりに登場してくる動植物は、その地域で生き続けてきた生き物であり、それらはみんなのものである。
●今まで閉鎖的であった学校は、新しい教育課程の推進によって(総合学習の推進等)地域社会と手を結ぼうとする取り組みが活発化してきた。住民はボランティア活動として学校の取り組みを支援し、協力することに意欲的になり、学校はそうした協力によって新しい教育課程のスムーズな推進が期待できる。
●学校ビオトープづくりは、学び合いの原点である。
子ども達にとってみれば、学校ビオトープづくりは新しい体験学習である。目にする生き物は当然としても、資材やそれを使っての作業も初めてのケースが多い。すべてがワクワクドキドキの体験学習である。完成後とて同じである。季節と共に変化していくビオトープは命と生態系の学びの場である。一方指導やお手伝いに関わる大人にとっては、この取り組みが川や里山で幼い頃に体験した懐かしい思い思い出であり、立派な指導者として子ども達の前に立つことができるのである。自然な形で学校ビオトープは学び合いの場が形成されていくと言える。
●学校ビオトープづくりはコミュニティ作りである。多様な生態系の保全や創造を目指すビオトープづくりは、様々なノウハウを必要とする。一業者にすべてを任せる方法もあるが、私たちが求めているのは、地域の多様な人びとの支援と協力を得て作りあげていく学校ビオトープであり、その取り組みそのものがコミュニティづくりである。

3・今後の課題
 すでに述べたように学校ビオトープは、生物の保存や、絶滅していく生き物の増殖、学校間のネットワークによる生き物の生息空間の連続性確保など、生態系保全のための成果は大きなものがある。一方ビオトープづくりは、計画の段階から作業の段階、完成後の観察やモニタリングなど、一連の過程において子ども達と地域住民の関われる場が大きく、子どもと大人が一緒にふれあう場としては大変都合の良い学習の場であり望ましいスタイルである。
 そこで大切な事は、一連の課程のプログラム作成である。ややもすると、池ができたり、川が整備されるとその時点でビオトープが完了したかのように思いがちだが、本当はそこからがビオトープの本領である。保全の手法や復元のやり方、新しい池や森を作るビオトープづくりの手法等については、すでにいろいろの団体や機関から様々な本が発刊されているので基本的な事に関しては参考にすることはできる。しかしビオトープは地域によって様々であり、普遍的な手法はあり得ず、試行錯誤の連続が多い。こうした場合、ややもすると専門家として大学の先生や、行政の担当者に指導を仰ぐケースが多いが、「川づくりは川に学べ」「森づくりは山に学べ」と言われるように、その土地に長く住んでいて、昔地元の川や山を熟知している人に指導を仰ぐ事が大切である。残念ながら今までそうしたケースは多くはない。
 これからどのように学校が関わっていくのか、地域との係わりはどのようにしてくのか、しっかりとしたプログラムが必要である。こうしたプログラムと実践記録を蓄積していく中から素晴らしい取り組みや、良くない取り組みが見えてくるであろう。 これが、私達全国学校ビオトープ・ネットワークの課題でもある。地味な取り組みではあるが、こうした事例を多く蓄積する中から21世紀の学校ビオトープの正しいあり方が検証されていくのである。

最後に強調したいことは、学校ビオトープは子どもや生徒が主役でなくてはならないという点である。「最初に学校ビオトープありき」ではなく、まず子どもたちがこうした取り組みに主体的に参画できるプログラムを作る事が大切である。地域の自然を学ばずして、生態系の基本も学ばずして、ただ大人の指示に従い、作業を手伝っているだけの子ども達の姿からは、21世紀の環境保全のきびしさに立ち向かう人間は育たない。

     
「全国学校ビオトープ・ネットワーク」について

 この会は、1998年の6月に、全国の学校ビオトープのさらなる発展とネットワーク化の必要性を痛感して、第26回自然環境復元研究会(静岡)終了後、有志によって全国ネットワークづくり決め準備に入りました。
 2001年の6月に「全国学校ビオトープ・ネットワーク」の第1回総会を開催し実質スタートしました。この時点、事務局を自然環境復元協会事務局(東京)に併置することとしました。
 2002年4月に第2回の総会を開催して今日に至っています。その間今年の5月には、フオーラム「自然体験学習の実践をめぐって」を、NPO法人自然環境復元協会と共催。8月には「全国学校ビオトープ・シンポジウムin大垣」を開催し成功裡に終えました。
 このようにまだ誕生して間もない組織ではありますが、全国各地で推進されている学校ビオトープのネットワークづくりをめさして活動を続けていきますので、関係者のご協力をお願いします。
現在会員募集中です。細部については下記のホームヘージをご覧下さい。また事務局へお気軽にお尋ね下さい。


<事務局>
〒113-0033 東京都文京区本郷6-2-10-902
NPO法人自然環境復元協会内
「全国学校ビオトープ・ネットワーク」
TEL:03-3818-0252 FAX:03-3818-8530
ホームページ
http://www.ds-j.com/nature/jsbn/ 
E-mail  info@narec.or.jp


 
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