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日本ビオトープ協会誌2003ビオトープNo.13

農村におけるビオト−プ
−圃場整備事業によるビオトープの保全と創出−


秋田県立大学短期大学部
農業工学科
助教授 神宮字 寛



○はじめに
 ビオト−プとは、生物群集の生息場所として最小単位となる面積を持ち、均質なまとまりを持った空間という意味の言葉である。(一の瀬、Stefan1997、ヨーゼフ1997)ビオト−プ概念の発祥地であるドイツでは、ビオト−プの地図化を行い、圃場整備を進める際に配慮すべき事項を示したものとしてビオト−プ地図を事業計画の中で活用してきた。それでも開発によるビオトープの破壊が進んだことから、より積極的にビオト−プを創出していくという政策の展開を図ってきた経緯がある。こうした積極的にビオト−プを創出する政策の基本となった考え方は、仮に人工的に作られた池であっても、設計の中に自然の法則性を十分読み込んでいて、その後の立地保護を行うことで生物相の回復が図れる、というものであった。 

 日本では土地改良法の改正によって、農業農村整備事業において環境に配慮した事業を行うことが実施原則となった。今後、圃場整備事業の導入によって現状の生態系を劣化させない配慮に加え、生態系の一層の回復を図る措置が以前にもまして重要になると考えられる。すなわち、現存するビオトープの保全とともに、仮に失われるビオトープがある場合に新たなビオトープを創出していくという整備が必要となるであろう。

 本稿では、秋田県で実施された生物の生息環境に配慮した圃場整備事業の事例を紹介する。特にミテイゲーションの考えに基づいたビオト−プの保全と創出に関する考え方や技術を紹介し、生態系保全に有効な圃場整備事業に向けた課題を考えていきたい。

○保全対象種の生態


写真a:巣を守るイバラトミヨ


 秋田県では、平成11年から生態系保全に配慮した圃場整備事業に取り組んでいる。その保全対象種は、イバラトミヨ雄物型というトゲウオ目トゲウオ科トミヨ属の魚である。

 イバラトミヨは、背中におよそ8〜11本、胸鰭の下に1対、尻鰭の前に1本のトゲを持っている魚である。このトゲの存在から、ハリザッコ、トンギョと呼ばれ、地域の人々に親しまれている。イバラトミヨは、写真aに示したように巣を作るという特異な習性を持っている。繁殖期になると雄は水草の破片や植物の根などを巣材として、直径3〜4cm位の巣を作り、その後、体色が黒色に変化した雄が、雌を巣の中に誘引し産卵させる。雄は巣の中の卵が孵化するまでの間、巣に新鮮な水を送るためのファンニング(胸鰭を動かして巣に水を送る行為)を行い、仔魚が巣から離れるまで守り続けることが知られている。雌は、複数回の産卵を終えたあとに一生の終わりを迎え、雄も巣作りと自分の子孫が巣立つまでの保護活動を続けたあとに、1〜2年の短い一生を終えることになる。

 イバラトミヨの生息場所は、湧水が流れる水路や湧水のわき出る池(湧泉と呼ばれている)である。その生息地である湧泉や水路が、@圃場整備事業によって埋立られることによる消失、A地下水位の低下による湧水の涸渇、B水路が3面コンクリート化に改修、といった影響を受けている。イバラトミヨの生息数は激減しており、絶滅の恐れのある動植物を記載したレッドデ−タブックでは、絶滅危惧TAに指定されている。


 
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