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日本ビオトープ協会誌2003ビオトープNo.14

湖沼の再生・建設事業とビオトープ

埼玉大学理工学研究科
環境制御工学専攻
教授  浅枝 隆


1.はじめに
 ビオトープは、生物の生息空間がその言源であり、これは必ずしも水域についてのものではなく、草原、山地、様々な場所に対して考えられるものである。しかし、陸域の生物と水生生物の接点である水辺空間は、その意義が最も問われやすいものである。この意味では、湖や沼のビオトープの意義はとりわけ大きいといえる。

 さて、ビオトープやビオトープ事業というと、一般に、生態系の保全/創出という意味合いのみで行われる事業やその対象の場を考えがちであるが、実際には別の目的で行われる多くの事業もビオトープの保全/創出事業であり、単にその事業目的の対策としてではなく生態系の復元という観点で取り組まれなければならないものである。

2.ビオトープと人工的な水質改善対策との関連
 湖沼の水質対策は、多くの場合、自然再生事業と別の観点から捉えられる。水質改善は浄化施設の建設など様々な人工的な方法に頼らなければならない場合が多く、これが自然再生事業と相容れないように捉えられるためであろう。しかし、湖沼の水質対策のほとんどはこうした自然再生事業、ビオトープ創生事業に他ならず同列で捉えられるものである。

 湖沼の人工的な水質対策と自然再生との関連が極めて明快に示される例として、湖沼の水質改善のためのバイオマニピュレーションがある。浅い湖沼は、透明度が高い場合には多少の栄養塩負荷があってもその状態が継続されるが、一旦水質が悪化し透明度が低下すると今度はその状態が維持されるという二者択一的な挙動を示す。バイオマニピュレーションは、大量の人工的な汚濁負荷によって透明度が高いときに元々存在していた生態系が破壊されてしまった場合、単に栄養塩負荷を減少させただけでは十分な透明度を回復できないため、人工的な方法によって透明度を上げて、破壊された生態系を復元、透明度の高い時に生じている状態に移行させようというものである(Scheffer, 1998)。

 この人工的に透明度を増加させる手段として、動物プランクトン食魚やベントス食魚を除去したり、魚食魚を導入することによって、動物プランクトン量を増加させ、また、土壌中の栄養塩の水中回帰を減少させたり(トップダウン型のバイオマニピュレーション)、場合によっては、水質浄化施設等によって流入する栄養塩負荷を減少させることによって透明度の高い状態に生じていた生態系に復元する(ボトムアップ型のバイオマニピュレーション)ことが行われる。最終的には、沈水植物群落、特に、湖底を覆うシャジクモ群落の再生、それを隠れ家とする様々な動物の出現(ヨーロッパの場合には富栄養化によって姿を消した捕食魚の出現)を目的とし、一旦そうした植物群落が形成されれば、その後は汚濁負荷の流入にも耐性のある湖沼が創造されると考えられている。

 従って、この背景にある考え方は、既に自然なままでの回復が不可能なまでに改変された状況にある湖では、人工的な措置によって回復を図るというミティゲーションの考え方である。

 バイオマニピュレーションの先進国オランダでは、隣り合う二つの湖Wolderwijd とVeluwemeerにおいて、Wolderwijd では魚を取り除くことにより、Veluwemeer では浄化施設により汚濁負荷を削減することにより、水質や植生の再生に対する比較が試みられている。いずれの湖においても、透明度が格段に上昇し、最初、パイオニア種であるリュウノヒゲモが増え、その後、シャジクモ群落に遷移している。

 この意味では、こうした水質対策も、透明度を改善するという人工的なミティゲーション行為は入るものの、その後は、その状態の元での生態系自体による回復に任したものであり、大掛かりなビオトープ創生ということができよう。

 さて、同様な再生事業はわが国でも様々な場所で行われている。手賀沼の北千葉導水路による利根川の水の導入による再生もその例である。ここでは、毎秒約10m3の利根川水が手賀沼上流端に設けられた施設より導入されている。これにより、湖内の水質は徐々に改善され、植物プランクトン量は減少、流入口周辺には、沈水植物のマツモの回復もみられるようになってきている。また、導入口周辺にそれぞれの抽水植物の特性に応じた、際立った群落の分布がみられる。



 
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